ノータイトル
水道に行こうとしたら近くに集団がいた。上級生だと思う。わぁわぁ騒いでるし何か嫌だから水飲むの諦めて教室に戻ることにした。
教室前の廊下で紺野にばったりあった。入学式の時を思い出す。教室から出て行こうとするから、どこにいくのか聞いたら「水道」って言う。
先輩たちが騒いでたからやめたら?って伝えたら「え?どこの?」って聞かれて、場所を答えたら「遠っ!」って言われた。
「すぐそこにあんじゃん・・・喉乾いてんの?」
「・・・」
近くの水道はクラスのやつも行ってるし一人で飲みに行くのがなんか惨めで嫌なんだよ・・
俯いて黙ってたら「あのさぁ」って紺野が話し出す。ネガティブな自分が悪いのはわかってるし説教されんのかと思った。でもそうじゃなかった。
「昨日知らない先輩が教えてくれたんだけど、学校の中で1番冷たい水が出る水道・・一緒に行く?」
俺は顔を上げる。
「でももっと遠いから走らないと間に合わないよ?」
否定されると思ってた分、その提案がめちゃくちゃ嬉しかったから即答で「行きたい」って答えた。
二人で走って水飲んで慌ててるから冷たさなんてわかんなかったけど、走って教室に戻ってる時もなんとも言えない気持ちだった。
息を切らして教室に戻ったらクラスのやつに「どーした?!」ってびっくりした顔で聞かれたから経緯を説明したら「ばかじゃん!」って、みんなに笑われた。
嫌な笑われ方じゃなくて、しかも俺一人笑われたわけじゃない。
最高だった
アイス
学校の帰りにコンビニ寄ってアイスを買った。幸村がバニラで俺がオレンジのかき氷。近くの公園のベンチに座って食べ始めたんだけど、幸村がいきなり俺に蓋とったバニラのカップを渡してきて『ちょっとのせて』っていう。
最初何を言われてるのかわかんなかったけど、俺の食ってるかき氷を少しバニラに乗せてほしいってことらしい。
木のさじ3杯分くらいのせたら『ありがと』っていってカップをひっこめた。
ナントカフロートとか練乳入りかき氷とかは見たことあるけど、バニラの上にほんの少しだけかき氷乗せてあるタイプのアイスは見たことなくて、少し興味がわいたけど幸村は特に何も言わないでさっさと食ってカップをゴミ箱に捨てた。
バニラの上にかき氷のっけて食う文化でもあるのかな?光が丘は都会だから。
紺野のこと
家に帰ってから紺野の事をずっと考えてる。初対面の人間の前であんなに泣いたのは初めてだった。
自己紹介の時に聞けたのは中3の時だかに椿平から光が丘に引っ越して来たって事と、体育が好きってことくらい。言葉と言葉のあいだが少し長いから、話をするのが苦手なのかもしれない。
帰りに父兄や他のクラスのやつとかで混みまくってた下駄箱で、紺野のスニーカーが俺の知らないブランドだったのがすごく印象に残ってて、パソコンで調べたんだけどよくわからなかったから投げ出した。
目を閉じると紺野の声が頭の中で何度も再生される。顔よりも声を思い出すんだ。
声をかけてもらえた事が本当に嬉しかったんだろうな。きっと。
飴と幸村
俺、よく幸村に飴をあげるんだけど、口の中に入れた飴を必ず俺に見せてくるのが不思議でたまらない。自分の地元だと『食ってる時は口を閉じろ』って考え方が主流だったから、地域差なのかな・・って友達に聞いたら『それは幸村がおかしいだけ』って即答された。
どうせ見せてこようとするなら見せがいがある飴をあげようと思って、幸村用の飴を買う時には形や色が変わってるやつを選ぶようにしてる。
特に形が変わった飴を上げたときは幸村めっちゃ上機嫌で、ハートの形の飴をやった時なんかは休み時間ごとに『飴くれ』とか言って俺のポケット漁って飴食ってた。
そのたびに口の中見ろってうるさかったから、その日の夜に夢に見たくらい。
人って色々なんだなってマジで思った。